自走する組織づくりのために人事評価制度の充実は必要不可欠となります。従来の課題を克服するため従業員を価値創造の主体として捉えるアプローチの採用、評価基準の透明性向上、プロセス重視の評価、多面評価の導入などにより、公平性と納得性を高めることが重要です。また、人事評価制度を通じ、個人とチームの成長を促し、継続的な挑戦と発展を実現することが重要なミッションとなります。
人事評価制度の一般的な課題
現在の人事評価制度には、多くの課題が存在しています。
まず、評価基準の不透明さと厳しさが挙げられます。多くの企業で評価が5段階で行われていますが、その分布が偏っており、大半の従業員が中間の評価に集中してしまう傾向があります。
また、完璧な達成でも平均的な評価しか得られず、それ以上の評価を得るためには追加の成果が必要とされるなど、基準が厳しすぎる場合もあります。
評価方法にも問題があります。結果のみを重視し、プロセスや努力を考慮しない評価方法や、チーム業務よりも個人の提案業務を重視する傾向が見られます。
さらに、上司による評価にばらつきや主観性が入り込むことも課題となっています。
これらの問題は、従業員のキャリアやモチベーションに大きな影響を与えています。昇進・昇格の条件が厳しく設定されていたり、低評価が続くことで会社に必要とされていないと感じてしまったりする従業員も少なくありません。また、厳しい評価基準によって仕事の楽しさが失われたり、低評価により賞与が減少するなどの金銭的な影響も生じています。
人事評価制度の注意点とリーダーが実践すべき考え
人事評価制度を改善するにあたり、いくつかの注意点があります。
業績評価においては、数値化しにくい業務の評価が難しいこと、短期的な成果に偏重しがちであること、チーム貢献や長期的な取り組みが評価されにくいことなどに注意が必要です。 これらの課題に対して、リーダーは定量的な目標と定性的な目標をバランス良く設定し、プロセスも含めて評価することが重要です。また、個人の目標と組織の目標を連動させ、全体最適を意識させることも大切です。
情意評価では、評価基準が曖昧になりやすく、評価者の主観が入りやすいという問題があります。これに対しては、具体的な行動指標を設定して評価基準を明確にし、複数の評価者による多面評価を取り入れることで公平性を高めることができます。
能力評価においては、現在の業務に直結しない能力の評価が難しいことや、能力の発揮機会が公平でない可能性があることに注意が必要です。リーダーは将来必要となる能力も含めて評価項目を設定し、能力発揮の機会を意図的に創出することで、公平な評価環境を整えることができます。
人事評価制度の改善策と意見
人事評価制度を改善するためには、まず評価の目的を明確にすることが重要です。経営課題の解決や人材育成など、評価制度の目的を明確に定義し、その時々の経営方針や部門方針に沿った成果を上げた社員を高く評価できるよう、評価基準を柔軟に調整する必要があります。
また、職種別・役職別の評価基準を作成し、各職種や役職に応じた具体的な期待役割や行動基準を設定することで、納得性と公平性を高めることができます。評価の客観性を高めるために、上位の上司や役員による調整、評価者間の話し合いによる決定、複数評価者の平均点の採用などの方法を取り入れることも効果的です。
さらに、結果だけでなく目標達成に向けたプロセスも評価の対象とし、定期的な面談やコーチングを通じて日々の成長を評価し、コミュニケーションを活性化することが重要です。従来の固定的な評価制度を廃止し、より柔軟で社員の成長を促進するシステムを導入することも検討すべきでしょう。
自走する組織と人事評価制度
人事評価制度をうまく活用することが、自走する組織づくりのためには不可欠であると考えられます。これを実践するためには従来の考え方を大きく転換する必要があります。
まず、従業員をコストとしてではなく、価値を創造する人的資本として捉え直すことが重要です。この認識の転換により、組織は従業員の成長に投資することの重要性を理解し、長期的な視点でチームおよびメンバーの育成にフォーカスするようになります。
自走する組織では、リーダーとメンバー間のコミュニケーションとエンゲージメントを高めることで心理的安全性を確保します。ただし、これは単なる「仲良しクラブ」を目指すものではありません。リーダーは優しさだけでなく、成果へのコミットメントを重視し、新たな価値創造という基本的なビジネス目標を常に意識する必要があります。 この価値創造のプロセスには、個人とチームの成長が不可欠です。
個々人の人事評価結果を総合したものが会社全体の業績に直結するという認識を持つことで、個人の成長が組織の成長につながるという意識が醸成されます。 自走する組織のメンバーには、自己評価能力も求められます。単に「頑張っている」だけでなく、その努力が組織の目的や利益にどのように貢献しているか、本当に新たな価値を生み出しているかを常に考え、行動することが重要です。言われたことをただ実行するのではなく、自らの行動の意味と価値を理解し、独りよがりにならないよう振り返る姿勢が必要です。
自走する組織では、個人の成長が重要なテーマとなります。現状のスキルに満足せず、常に「プラスα」を求める姿勢が求められるのです。これは時に不快な領域への挑戦を意味しますが、そうした挑戦を通じて自己肯定感や達成感を得ることができ、これによりチームのパフォーマンス向上とも連動し、好循環が生まれます。
このように、自走する組織づくりは、従業員を価値創造の主体として捉え、成長と挑戦を奨励し、コミュニケーションと成果へのコミットメントのバランスを取りながら、個人と組織の成長を同時に実現していく取り組みだと言えます。
コメント