「AIに話しかけるのがよさそうなのはわかった。でも、毎日何をどう話せばいいのだろう」。前回を読んで、そう思った方もいるかもしれません。
今回は、それを1日5分の練習の形にします。特別な道具はいりません。スマートフォンと、音声入力が使えるAIのアプリがあれば始められます。
手順は3つです。頭の中を吐き出す、AIに整理してもらう、そして慣れてきたら、聞いた話や読んだ話を自分の言葉に組み直す。順番にお伝えします。
なぜ「5分」なのか
最初に、なぜ5分なのかをお話しします。理由は、長い時間を確保しようとすると続かないからです。
「休みの日に1時間、じっくり自分と向き合おう」と決めても、たいてい二度目はありません。予定が入ったり、疲れていたりして、1時間を空けること自体が負担になるからです。
歯みがきと同じ重さにする
続く習慣は、気合ではなく小ささで決まります。歯みがきのように、やるかどうかを迷わないくらい小さくすることが大切です。
5分なら、通勤の途中でも、お湯が沸くまでの間でもできます。一回で大きく変わらなくても、毎日の小さな積み重ねが、少しずつ言葉にする力を太くしていきます。
手順1:まとめずに吐き出す(1〜2分)
最初の手順は、頭の中にあることを、整えずにそのまま声に出すことです。私はこれを「吐き出し」と呼んでいます。
AIのアプリでマイクのボタンを押し、今日あったことや、引っかかっていることを話します。結論がなくても、話があちこちに飛んでもかまいません。
たとえば、こんな具合です。「今日の打ち合わせ、決まったことには賛成なんだけど、なんか疲れた。説明の順番がよくなかったのかな。いや、そもそも自分が準備の段階で迷っていたのかもしれない…」。
話すことが浮かばない日の、話し出し
とはいえ、マイクを押しても何も浮かばない日もあります。そんな日は、次のどれか一つから話し始めてみてください。
- 今日いちばん時間を使ったことは何で、それをやってどう感じたか
- 今日、少しだけ心が動いた場面はどこだったか(うれしい、悔しい、驚いた、どれでもよい)
- 明日のことで、少しだけ気が重いことは何か
どれも、正しい答えのない問いです。話し始めると、思っていなかった方向に話がそれていくことがありますが、それで大丈夫です。そのそれた先に、本当に話したかったことがあることも多いのです。
きれいにまとめるのは、むしろ逆効果
ここで大事なのは、きれいにまとめようとしないことです。「えーと」「なんか違う」といった迷いも、そのまま残してください。
迷っているところには、自分でもまだ気づいていない気持ちが隠れています。整えた文章からは、その手がかりが消えてしまいます。
手順2:整理してもらう(1〜2分)
吐き出したら、次はAIに整理を頼みます。頼み方は、たとえば次のようなものです。
- 「今の話はまとまっていません。私が本当に引っかかっていることと、大事にしていることを、短い見出しで3つに整理してください」
数秒で、散らばっていた話が見出しつきで返ってきます。「なんか疲れた」としか言えなかったものが、たとえば「準備の段階で迷いを残したまま説明したことへの後悔」のように、名前のついた形になって現れます。

名前がつくと、振り回されなくなる
この「名前がつく」ことに、大きな意味があります。名前のない気持ちは、自分の知らないところで判断に影響し続けます。
反対に、名前がついた気持ちは、ほかの人にも説明できるようになります。「疲れた」としか言えなかったときより、相談したり、助けを求めたりしやすくなるのです。
いったん名前がつけば、それは扱える材料になります。「準備で迷いを残すと、説明でも迷う。だから次は、説明の前に一度だけ結論を声に出してみる」と、次の行動まで考えられるようになります。
整理の結果がしっくりこないときは、「2つめは違う。気になっているのは時間ではなく順番だ」と話して直してもらいましょう。違和感を言葉にすること自体が練習になります。
手順3:聞いた話を、自分の言葉に組み直す
吐き出しと整理に慣れてきたら、もう一つの使い方を足してみてください。音声配信や動画、本などで何かを学んだ直後に、AIに話しかけるのです。
学んだ気になって、翌日には忘れている。そんな経験は誰にでもあります。聞いただけの知識は、自分の言葉になっていないので、使える形で残らないのです。
「自分の場合なら」をつけて話す
そこで、聞き終わったらすぐに、内容と自分の状況を結びつけて話します。たとえば、こんな具合です。
「さっき聞いた話で、『お客さんの待ち時間を楽しい時間に変える』というのが面白かった。うちの窓口でも、順番待ちの間に案内の紙を渡すだけになっている。あの時間に、よく聞かれる質問の答えを先に伝えられないかな」。
そのうえで、AIに「この思いつきを、上司に相談できるくらいの短い提案にまとめてください」と頼みます。聞いただけの話が、明日の職場で使える提案の骨組みに変わります。
| 聞いて終わり | 自分の言葉に組み直す |
|---|---|
| 「いい話だった」で終わる | 「自分の場合なら」をつけて話す |
| 数日で忘れる | 提案や行動の形で残る |
| 他人の言葉のまま | 自分の状況と混ざった、自分の言葉になる |
続けると、何が変わるのか
この3つの手順を続けていると、だんだんAIが返してくる整理の「型」が、自分の中にも入ってきます。「こういうもやもやは、こう言えばいいのか」「この順番で話すと、すっきりするのか」と、整理のしかたを覚えていくのです。
すると、会議で急に意見を求められても、頭の中で「要点は二つで、理由はこれ」と組み立ててから話せるようになっていきます。AIに頼る時間は、自分で整理する力を育てる時間でもあります。
1日5分の流れ
最後に、1日の流れをまとめておきます。
- マイクを押して、今日引っかかったことを1〜2分話す
- 「引っかかっていることと大事にしていることを3つに整理して」と頼む
- 返ってきた整理を読み、違うところがあれば話して直す
- 何かを学んだ日は、「自分の場合なら」をつけて話し、提案や行動にまとめてもらう
全部で5分ほどです。毎日すべてをやらなくてもかまいません。1と2だけの日があっても十分です。
整理してもらった言葉を、一つだけ残す
もう一つ、効き目を大きくする小さな工夫があります。AIが返してくれた整理の中から、いちばんしっくりきた言葉を一つだけ選び、メモ帳に書き写しておくことです。
一つだけにするのは、全部を残すと読み返さなくなるからです。1か月たってメモを見返すと、自分がどんな言葉で考えるようになったのか、その変化がよくわかります。
なお、職場の具体的な数字や人の名前は、「ある取引先」「Aさん」のように言い換えて話しましょう。気持ちや考えを整理するのに、本当の名前はいりません。
まとめ
- 練習は5分にする。長い時間を取ろうとすると続かない
- 手順1は、まとめずに吐き出す。迷いや言い直しも大事な材料になる
- 手順2は、AIに整理してもらう。気持ちに名前がつくと、振り回されなくなる
- 手順3は、学んだ話に「自分の場合なら」をつけて話し、提案や行動の形にする
- 続けると、AIの整理の型が自分の中に入り、その場で考えをまとめられるようになる
次回は、整理できた自分の考えを、相手に届けるための技術です。相手が首を縦に振らない理由をAIで先回りして見つけ、提案に組み込む方法をお伝えします。
連載「AIで言語化トレーニング」目次
- No.01 言語化は才能ではなく技術。「なんとなく」を言葉にすると、選ぶ自由が戻ってくる
- No.02 AIに丸投げせず「しゃべる」。音声入力で、整える前の考えをAIに渡す
- No.03 1日5分、AIに話すだけ ― 吐き出す・整理してもらう・聞いた話を自分の言葉にする(この記事)
- No.04 相手の「やらない理由」をAIで先回りする ― 提案が通る伝え方
- No.05 気合に頼らず「待ち時間」に組み込む ― 言語化を続ける仕組み
- No.06(最終回)連載のもとになった本『AI×言語化の教科書』の紹介
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『AI×言語化の教科書 ~1日5分の脳トレで「伝わらない」から解放され、「選択の自由」を手に入れる~』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、AIに文章を任せるのではなく、AIに話しかけて自分の考えを整理する「1日5分の言語化脳トレ」を、制御エンジニアと個人投資家の視点からまとめました。もやもやに名前をつける考え方から、相手の迷いを先回りする伝え方、毎日の待ち時間に組み込んで続ける仕組みまでを一冊で扱っています。
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