自信を持って出した提案なのに、「うーん、もう少し考えてみようか」で止まってしまう。理由を聞いても、はっきりした答えは返ってこない。そんな経験はないでしょうか。
前回までは、自分の考えを整理する方法をお伝えしてきました。けれども仕事では、考えがまとまっただけでは物事は動きません。相手に受け取ってもらって、はじめて前に進みます。
今回は、整理した考えを相手に届ける技術です。相手が首を縦に振らない理由を、AIを使って先回りして見つける方法をお伝えします。
提案が通らないのは、内容が悪いからとは限らない
提案が通らないと、つい「中身が弱かったのだ」と考えてしまいます。けれども、多くの場合はそうではありません。
人は、新しいことを始めるときに迷います。「今のままでも回っている」「失敗したら誰が責任を取るのか」「本当にうまくいくのか」。こうした小さな不安が、相手の頭の中に残っているのです。
不安は、口に出されないことが多い
やっかいなのは、この不安がはっきり言葉にされないことです。「費用が心配だ」と言ってくれれば答えられますが、多くの人は「もう少し考えよう」とだけ言います。
本人も、何が引っかかっているのか言葉にできていないことがあります。第1回でお話しした「言葉にできないもやもや」は、相手の側にもあるのです。
だから、相手が言ってくれるのを待つのではなく、こちらから先に見つけて答えておく。これが今回お伝えしたい考え方です。
AIに「反対する役」をしてもらう
相手の不安を先回りするのに、AIはとても役に立ちます。これまでは自分の考えを整理するために使ってきましたが、今度は相手の立場を想像する手伝いをしてもらうのです。
たとえば、チームで使う新しい予定管理の仕組みを、上司に提案するとします。提案書を書く前に、AIにこう話しかけます。
「来週、チームの予定管理を新しい仕組みに変える提案をします。目的は、会議の日程調整にかかる時間を減らすことです。あなたは、費用と現場の負担に厳しく、変化には慎重な上司になってください。この提案を断るとしたら、どんな理由を挙げるか、5つ教えてください。」
返ってくる反論が、相手の不安の候補になる
AIは、遠慮なく反論を並べてくれます。「費用に見合う効果はあるのか」「全員が使い方を覚えるまで、かえって手間が増えないか」「うまく動かなかったとき、元のやり方に戻せるのか」。
読んでいて少し耳が痛いかもしれません。けれども、これこそが相手の頭の中にあるかもしれない不安の候補です。本番の前に知っておけるのは、大きな強みです。
反論を集めるときの3つの工夫
反論の集め方にも、少し工夫ができます。次の3つを足すと、本番で役に立つ候補がそろいやすくなります。
- 立場を2〜3人分にする:上司だけでなく、実際に使う現場の人、費用を管理する人など、関わる人の立場ごとに反論を出してもらう
- 強い順に並べてもらう:「相手がいちばん気にしそうな順に並べてください」と頼むと、どこから答えを用意すればよいかがわかる
- 答えられないものに印をつける:並んだ反論を読み、自分がすぐ答えられないものに印をつける。そこが、提案の本当の弱いところ
特に3つめが大切です。答えられない反論は、提案を出す前に調べたり、上司以外の人に相談したりして埋めておきましょう。
ここで役の設定に、年齢や性別ではなく「何を大事にしている人か」を書くのがコツです。費用なのか、安全なのか、現場の負担なのか。大事にしているものが違えば、出てくる反論も変わります。

反論への答えを、提案の中に先に入れておく
反論の候補が見えたら、あとは答えを用意して、提案の中に組み込みます。相手が口に出す前に、答えが目の前にある状態をつくるのです。
| 相手が抱きそうな不安 | 提案の中に先に入れておく答え |
|---|---|
| 費用に見合う効果はあるのか | 日程調整にかかっている時間を数えて、減らせる時間の見込みを示す |
| 使い方を覚えるのが負担になる | 最初の2週間は、使い方の短いメモを用意し、質問を受ける時間を設ける |
| うまくいかなかったら戻せるのか | 1か月は今のやり方と並べて使い、問題があればすぐ戻せるようにする |
こうして答えが先に置かれていると、相手は反論を探す必要がなくなります。残るのは、「では、やってみよう」と決めることだけです。
数字は、自分で確かめてから使う
ひとつ注意があります。AIに答えの案まで作ってもらうと、もっともらしい数字が入ってくることがあります。
その数字は、必ず自分で確かめてください。実際に日程調整に何分かかっているかは、自分の職場で数えるしかありません。根拠のない数字を一つでも見抜かれると、提案全体の信用が落ちてしまいます。
これは相手を言いくるめる技術ではない
「先回りして反論を封じる」と聞くと、相手を言いくるめるような印象を持つかもしれません。けれども、目的はその逆です。
相手の不安を先に見つけて答えておくのは、相手の立場に立って考えることそのものです。言いにくい心配を、相手に言わせずに済ませる。これは、相手への気づかいでもあります。
先回りは、どんな場面でも使える
この考え方は、上司への提案だけのものではありません。家族に何かを相談するとき、取引先に新しい進め方をお願いするとき、ブログやSNSで何かを紹介するときにも使えます。
たとえば、読者に何かをすすめる文章なら、「初めてでもできるのか」「時間はどれくらいかかるのか」といった読む人の迷いに、先に答えておきます。答えが見つかると、人は安心して一歩を踏み出せます。
本番の前に、もう一度AIに聞く
提案書ができたら、もう一度AIに渡してみてください。「さっきの上司の立場で、この提案書を読んでください。まだ残っている不安があれば教えてください」と頼むのです。
残っている不安が出てきたら、また答えを足します。これを一、二回繰り返すだけで、提案の穴はかなり減ります。
最初の一文を、相手の心配から始める
答えをそろえたら、話す順番も見直してみましょう。おすすめは、提案のよさではなく、相手がいちばん気にしそうなことから話し始めることです。
「費用のことが一番気になると思うので、先にそこからお話しします」。こう切り出すだけで、相手は「自分の立場をわかってくれている」と感じ、残りの話を落ち着いて聞けるようになります。
もちろん、AIの上司は本物の上司ではありません。最後は、相手の表情や反応を見ながら、自分の言葉で話すことが大切です。AIは、その準備を手伝ってくれる練習相手です。
なお、提案の中身に社外に出せない情報が含まれる場合は、具体的な名前や数字を伏せてから相談しましょう。反論を想像してもらうだけなら、伏せたままでも十分に役立ちます。
まとめ
- 提案が通らないのは、内容が悪いからとは限らない。相手の頭の中に、言葉にされない不安が残っている
- AIに「何を大事にしている人か」を伝えて反対する役をしてもらうと、不安の候補が見える
- 反論への答えを提案の中に先に入れておくと、相手は決めることに集中できる
- AIが出した数字は、必ず自分で確かめてから使う
- 先回りは、相手を言いくるめることではなく、相手の立場に立つ気づかい
次回は最後の本編です。ここまでの練習を、気合に頼らず続けるための仕組みをお伝えします。毎日の「待ち時間」に組み込むという考え方です。
連載「AIで言語化トレーニング」目次
- No.01 言語化は才能ではなく技術。「なんとなく」を言葉にすると、選ぶ自由が戻ってくる
- No.02 AIに丸投げせず「しゃべる」。音声入力で、整える前の考えをAIに渡す
- No.03 1日5分、AIに話すだけ ― 吐き出す・整理してもらう・聞いた話を自分の言葉にする
- No.04 相手の「やらない理由」をAIで先回りする ― 提案が通る伝え方(この記事)
- No.05 気合に頼らず「待ち時間」に組み込む ― 言語化を続ける仕組み
- No.06(最終回)連載のもとになった本『AI×言語化の教科書』の紹介
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『AI×言語化の教科書 ~1日5分の脳トレで「伝わらない」から解放され、「選択の自由」を手に入れる~』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、AIに文章を任せるのではなく、AIに話しかけて自分の考えを整理する「1日5分の言語化脳トレ」を、制御エンジニアと個人投資家の視点からまとめました。もやもやに名前をつける考え方から、相手の迷いを先回りする伝え方、毎日の待ち時間に組み込んで続ける仕組みまでを一冊で扱っています。
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