前回は、教える項目の優先順位を「生活が止まる順」で決める方法を紹介しました。
今回は、それを具体的な時間割に落とし込みます。特定技能1号の生活オリエンテーション(目安8時間以上)を、どう配分するかの叩き台です。
8時間を1日でやらない
まず、8時間を1日で終わらせないでください。
来日直後は、時差、疲れ、不安で、集中力がすぐに切れます。この状態で8時間の説明を受けても、ほとんど残りません。
おすすめは、90分×4回+60分×2回を、来日から4週間に分ける形です。
ここは必ず足し算してください。 90分の枠を4つ並べただけでは360分にしかならず、目安の8時間に2時間足りません。60分の枠を2つ足して、合計480分でちょうど8時間になります。
なお、生活オリエンテーションは入国後「遅滞なく」実施することとされています。分けて行う場合も、始めるのは入国直後にしてください。登録支援機関に委託している場合は、その方針も確認しておきましょう。
6回の時間割
| 回 | 時期 | 時間 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 第1回 | 来日1〜2日目 | 90分 | ゴミと寮の設備 |
| 第2回 | 来日3日目〜1週間以内 | 90分 | 交通と自転車 |
| 第3回 | 2週目 | 90分 | お金と契約 |
| 第4回 | 3〜4週目 | 90分 | 病院と災害 |
| 第5回 | 第4回の直後 | 60分 | 個別の質問と実地 |
| 第6回 | 第5回の直後 | 60分 | 理解の確認と記録 |
それぞれの中身を見ていきます。
第1回:ゴミと寮の設備(90分)
- 前半45分は室内で:ゴミの分け方の考え方、袋、曜日、時刻。寮の風呂、洗濯機、ガス、鍵
- 後半45分は現地で:集積所まで歩き、実際に袋を置いてみる。写真を撮る。スーパーで袋を買う
現地に出る時間を必ず入れてください。室内だけの90分は、記憶に残りません。
第2回:交通と自転車(90分)
- 前半30分は自転車:信号、一時停止、ライト、左側、一人、スマホ。命に関わる2つを先に、残りの4つは金額から伝える(詳しくはNo.01)
- 後半60分は通勤経路:実際に一往復し、危ない場所を指さす。事故のときの手順をカードにして渡す
第3回:お金と契約(90分)
家賃、公共料金、給与明細の見方、税金と社会保険料が引かれること。携帯電話の契約、銀行口座、送金の方法。
そして、詐欺の具体例。ここに30分は使ってください。
第4回:病院と災害(90分)
- 前半45分は病院:保険証、診療所の場所、119番、体調が悪いときは休んでいいということ
- 後半45分は災害:避難所まで歩く。持ち出すものを確認する。多言語の防災アプリを入れる。机の下に入る動作を一度やってみる
第5回:個別の質問と実地(60分)
まとまった質問の時間を取ります。ここは必ず個別にしてください。 全体では質問が出ません(理由はNo.04)。一人10分程度です。
残りの時間は、集積所、スーパー、診療所、避難所をもう一度歩きます。一度歩いた場所をもう一度たどると、記憶が固まります。
第6回:理解の確認と記録(60分)
最後の枠で、理解を確かめます。「わかった?」ではなく、やってもらう形で確認します。
- 袋を渡して、どれに入れるか指さしてもらう
- 自転車のライトを点けてもらう
- 時計を指して、何時までかを答えてもらう
そして、この枠の中で記録を書き上げます。 あとでまとめて書こうとすると、必ず後回しになります。
記録は2種類残す
記録には2種類あります。混ぜないでください。
- 制度が求める記録:生活オリエンテーションの確認書に本人の署名をもらい、保管します。実施した内容や時間の記録もあわせて必要です。様式と保管期間は、必ず最新の運用要領で確認してください
- あなたのための記録:「8月5日 90分 ゴミと寮設備 グエン・チャン 実施者○○」のように1行で足ります。次の受け入れで同じ手順を再現するための、社内の補助記録です
2つめは1つめの代わりにはなりません。両方残してください。
技能実習から移行する場合
技能実習2号を良好に修了し、同じ会社で特定技能1号に移行する場合などは、目安が4時間以上とされています。
この場合は、第1回と第2回、そして最後の確認と記録の枠を残す形に組み替えてください。
まとめ
- 8時間を1日でやらず、90分×4回+60分×2回を4週間に分ける
- 合計が8時間以上になっているか、必ず足し算で確かめる
- 各回には、室内の説明だけでなく現地に出る時間を入れる
- 質問は個別に。確認は「やってもらう」形で
- 記録は、制度が求める確認書と、1行の社内メモの両方を残す
次回は、やさしい日本語の5つの原則と、避けたい伝え方3パターンを取り上げます。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04 「はい、わかりました」は同意ではない ― 教えたと伝わったの間にある5段階
- No.05 張り紙が読まれない4つの理由と、N5・N4でできること
- No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める
- No.07 生活オリエンテーション8時間の配分例 ― 90分×4回+60分×2回を4週間に分ける(この記事)
- No.08 やさしい日本語の5原則と、避けたい伝え方3パターン
- No.09 ゴミ出しは4つの確認で教える ― 何の日・どの袋・いつまで・どこに
- No.10 夜の音は「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える ― よくある失敗7つと最初の3日
- No.11 最初の1か月で伝える、命とお金に関わること
- No.12 一度で終わらせない ― 先輩に説明役を渡し、引き継ぎを残す
- No.13 本の紹介(公開予定)
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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出典:特定技能の生活オリエンテーション|8時間・必須項目・確認書(行政書士法人office TREE)、出入国在留管理庁 生活オリエンテーションの確認書(参考様式)

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