何をいつ教えるかが決まったら、次は「どう話すか」です。
この記事では、現場でよく見かける効果の薄い伝え方3パターンと、やさしい日本語の5つの原則、そして説明役を先輩に渡す方法を紹介します。
避けたい伝え方、3パターン
どれも善意から生まれるものです。だからこそ、繰り返されます。
1. 全員を集めて一度に説明する
効率的に見えますし、実際に効率的です。ただし、伝わりません。人前では質問できないうえ(No.04)、全員に向けた説明は、誰にも向いていない説明になるからです。
全体説明が無意味なわけではありません。「こういうルールがあります」と知らせることはできます。そのうえで、個別に、実物の前で、一人ずつやり方を見せる。この2段構えが必要です。
2. 翻訳アプリで長文を送る
問題は3つあります。長い文は読まれない。「可燃ごみ」「収集日」「指定袋」のような言葉は機械翻訳で意味がぶれる。そして、文字だけでは袋の色や集積所の場所が伝わらない。
翻訳アプリを使うなとは言いません。短く、1文に1つの意味で、写真を添えて使ってください。
3. その場で理解を確認しない
「わかった?」「はい」で終わり。これがいちばん多いパターンです。代わりに、やってもらいます。袋を持たせて、どれに入れるか指さしてもらう。自転車のライトのスイッチを押してもらう。
手を動かした記憶は、聞いた記憶よりずっと長く残ります。
やさしい日本語の5つの原則
出入国在留管理庁と文化庁は、2020年8月に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を公表しています。そこで示されている考え方を、現場で使う形に絞ると5つになります。
原則1 1文を短くする
悪い例:「ゴミは分別して、決められた曜日の朝8時までに、指定の袋に入れて集積所に出してください」
1文に、分別・曜日・時刻・袋・場所の5つが入っています。
良い例:「ゴミを分けます。水曜日の朝に出します。8時までです。青い袋を使います。場所はここです」
原則2 「〜ので」でつながない
「壁が薄いので、夜は静かにしてください」ではなく、「この家は壁が薄いです。夜は静かにしてください」。意味は同じですが、理解の速さが違います。
原則3 敬語を「です・ます」にする
「ご確認いただけますでしょうか」は「確認してください」。「お持ちになってください」は「持ってきてください」。失礼にはなりません。「です・ます」は十分に丁寧です。
原則4 漢語を和語に言い換える
| 漢語 | 和語 |
|---|---|
| 使用する | 使う |
| 購入する | 買う |
| 返却する | 返す |
| 開始する | 始める |
これだけで、難しさが一段下がります。
原則5 書くときは、ふりがなと分かち書き
紙に書くときは、文節ごとに間を空け、漢字にはふりがなをふります。「ゴミを 分けて ください」。単語の切れ目が見えると、意味が取れます。
いちばん効くのは、写真
5つの原則を書きましたが、実はそれ以上に効く方法があります。
写真を見せることです。
袋の写真、集積所の写真、ライトが点いている自転車の写真、時計の写真。言葉を一つも使わずに伝わります。やさしい日本語より、さらにやさしい。
言葉の工夫は、写真で伝えられないものにだけ使ってください。
一人に教えるのではなく、「一人目」に教える
最後に、「誰に教えるか」という順番の話です。
新しい人が来るたびに、あなたが一から説明していませんか。3人来れば3回、5人来れば5回、毎回同じ内容です。
これを変えます。先に来た人に、説明役を渡してください。
理由は2つあります。ひとつは、あなたの負担が減ること。もうひとつのほうが大事で、同じ立場の人の言葉が、いちばん届くからです。
「最初、私もわからなかった。この袋、ここのスーパーで買う」
この一言のほうが、あなたの30分の説明より効くことがあります。日本語が完璧でなくても構いません。同じ言葉で、同じ苦労をした人が説明するほうが、質問も出ます。
ただし、丸投げはしません。
- 何を伝えてほしいかを、紙1枚にして渡す
- 説明が終わったら、新しい人に「次は何曜日に、何を出しますか」と直接聞いて確かめる
- 説明役をしてくれた人には、みんなの前でお礼を言う(面子が上がり、次も引き受けてくれます)
まとめ
- 全員一斉の説明、翻訳アプリの長文、確認なし、の3つは効果が薄い
- やさしい日本語は「短く・つなげず・です・ます・和語・分かち書き」
- それ以上に効くのは写真
- 説明役は先に来た人に渡す。ただし、最後の確認はあなたがする
次回からは、いよいよ最初の3日で伝える具体的な中身に入ります。まずはゴミ出しです。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04 「はい、わかりました」は同意ではない ― 教えたと伝わったの間にある5段階
- No.05 張り紙が読まれない4つの理由と、N5・N4でできること
- No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める
- No.07 生活オリエンテーション8時間の配分例 ― 90分×4回+60分×2回を4週間に分ける
- No.08 やさしい日本語の5原則と、避けたい伝え方3パターン(この記事)
- No.09 ゴミ出しは4つの確認で教える ― 何の日・どの袋・いつまで・どこに
- No.10 夜の音は「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える ― よくある失敗7つと最初の3日
- No.11 最初の1か月で伝える、命とお金に関わること
- No.12 一度で終わらせない ― 先輩に説明役を渡し、引き継ぎを残す
- No.13 本の紹介(公開予定)
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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