外国人材を受け入れると、教えることが山のようにあります。
ゴミ、交通、病院、災害、契約、税金、年金、銀行、携帯電話、買い物、近所付き合い、相談窓口。
真面目な担当者ほど、これを全部、最初に伝えようとします。12項目あるから、1項目40分ずつ。一見、公平で抜けがないように見えます。
でも、これをやると何も残りません。
この記事では、教える項目の「優先順位」の決め方を紹介します。
決まっているのは「項目」まで。順番は現場で決める
特定技能1号の受け入れでは、生活オリエンテーションが義務的な支援のひとつです。実施時間の目安は8時間以上で、説明すべき項目も運用要領で決められています。金融機関や医療機関の使い方、交通ルール、生活のルールやマナー、災害時の対応などです。
つまり、何を教えるかは決まっています。
決まっていないのは、それをどの順番で、どれだけ時間をかけて、どう確かめるかです。ここは現場ごとに違うので、どこにも書かれていません。
出入国在留管理庁の「生活・就労ガイドブック」や「生活オリエンテーション動画」のような公式の教材もあります。まだ見ていなければ、先に開いてみてください。それでも困るのは、順番と確かめ方が現場任せだからです。
均等に配ると、何も残らない
8時間を項目の数で割ると、何も残りません。
理由はNo.04で書いたとおりです。来日直後は、覚えることが多すぎて頭がいっぱいです。12項目を40分ずつ浴びた人の頭に残るのは、断片だけ。しかも、たいてい最初と最後だけです。
全部を説明したという記録としては正しい。でも、行動を変える方法としては機能しません。
優先順位は「生活が止まる順」で決める
では、何を先に教えるか。判断の基準はひとつで足ります。
それを知らないことで、明日、生活が止まるか。
この基準で並べると、4つの段階に分かれます。
| 段階 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 命と体に関わるもの | 災害時の避難、火事、救急車の呼び方、事故 |
| 2 | お金を失うもの | 交通違反の反則金、家賃の滞納、契約の自動更新、詐欺 |
| 3 | 生活が止まるもの | ゴミが出せない、通勤路がわからない、近所ともめる |
| 4 | 知っておくと便利なもの | 祝日、季節の行事、割引、観光 |
ここで大事なのは、1段階目がいつも最優先とは限らないということです。
災害は明日起きるとは限りません。一方で、ゴミは明後日には出ます。自転車は今日から乗ります。夜の音は今夜から出ます。
だから実際には、「どれだけ大事か」と「どれだけ頻繁に起きるか」をかけ合わせて並べ直します。
その結果、この連載では次の2段構えを提案しています。
- 最初の3日:ゴミ・自転車・夜の音の3つだけ
- 最初の1か月:命と法律に関わることすべて
初日に渡すものは、覚えさせなくていい
ただし、3つに絞る前に、命に関わる3つだけは初日に渡してください。説明は短くて構いません。紙を渡して、その場で一度だけ使ってもらいます。合わせて5分です。
- 電話番号のカード:119番(救急・火事)、110番(警察)、あなたの携帯番号を大きな字で書き、財布に入れてもらう
- 寮の住所を書いた紙:建物名と部屋番号まで。119番に電話したとき、読み上げてもらうためのもの
- 最寄りの避難所の場所:地図に印をつけて渡す。歩いて行くのは4週目で構いません
「けがのときは、どっち?」と聞いて、119を指させれば通じています。
絞るのは「覚えてもらう項目」の話です。渡しておくだけで効くものは、絞る対象ではありません。
なぜ、覚える項目は3つなのか
「3つでは足りない」「あとで教えていなかったと言われる」。その心配はわかります。
でも、考えてみてください。12項目を伝えて3つしか残らないのと、3つを伝えて3つとも残るのとでは、結果は同じか、後者のほうがいいはずです。
しかも後者は、残る3つをこちらが選べます。12項目を一度に伝えると、何が残るかは運任せです。祝日の話だけ覚えていて、ゴミの曜日を忘れている、ということが実際に起きます。
絞る3つは、次の条件で選びます。
- 毎日、または毎週、必ず起きる
- 間違えると、外から苦情が来る
- やり方が単純で、3日で覚えられる
この3条件で選ぶと、ゴミ・自転車・夜の音が残ります。
残りは「いつ教えるか」を先に決めておく
絞るというのは、捨てることではありません。後に回すということです。そして、後に回すなら、いつに回すかを先に決めておきます。
| 時期 | 教えること |
|---|---|
| 1週目 | 通勤経路、買い物、寮の設備 |
| 2週目 | 銀行、携帯電話、家賃の払い方 |
| 3週目 | 病院のかかり方、保険証 |
| 4週目 | 災害時の行動、避難所 |
| 2か月目 | 税金、年金、各種手続き |
| 3か月目 | 相談窓口と連絡先の再確認 |
これは寮の掲示板ではなく、あなたの手帳に貼ってください。相手ではなく、あなたが忘れないためのものです。
「なぜ」を先に言うと、繰り返しが減る
もうひとつ、1つの項目の中での順番もあります。
「生ごみは水曜と土曜。プラスチックは月曜。袋はスーパーの指定袋で」。正確ですが、理由がないので定着しません。理由のないルールは、少しでも面倒だと省かれます。これは国籍に関係なく、人間の性質です。
そこで、先に理由を言います。
「日本のごみは、種類ごとに処理する場所と方法が決まっています。混ざっていると、決められた方法で処理できません。だから、出すときに分けます」
理由を知っていると、細かいルールを忘れても、自分で判断できるようになります。
さらに効くのが、ベトナム側の事情と並べることです。
「ベトナムでも、2025年から分別が始まりましたよね。日本は先に始めたので、細かくなっています」
こう言うと、「知らないのは自分だけではない」とわかり、面子が守られます。面子が守られると、質問が出るようになります。
まとめ
- 生活オリエンテーションで決まっているのは項目まで。順番と確かめ方は現場で決める
- 8時間を均等に配ると、何も残らない
- 優先順位は「生活が止まる順」。大事さと頻度をかけ合わせる
- 命に関わる3つは初日に紙で渡す。覚えてもらうのはゴミ・自転車・夜の音の3つ
- 残りは「いつ教えるか」を先に決める。「なぜ」を先に言う
次回は、生活オリエンテーションの8時間を、4週間にどう配分するかの具体例を紹介します。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04 「はい、わかりました」は同意ではない ― 教えたと伝わったの間にある5段階
- No.05 張り紙が読まれない4つの理由と、N5・N4でできること
- No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める(この記事)
- No.07 生活オリエンテーション8時間の配分例 ― 90分×4回+60分×2回を4週間に分ける
- No.08 やさしい日本語の5原則と、避けたい伝え方3パターン
- No.09 ゴミ出しは4つの確認で教える ― 何の日・どの袋・いつまで・どこに
- No.10 夜の音は「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える ― よくある失敗7つと最初の3日
- No.11 最初の1か月で伝える、命とお金に関わること
- No.12 一度で終わらせない ― 先輩に説明役を渡し、引き継ぎを残す
- No.13 本の紹介(公開予定)
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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