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【外国人材の生活支援】No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める

たくさんの絵カードの中から、支援担当者がゴミ袋・自転車・月の3枚を選んで外国人材に渡しているイラスト ビジネス勉強会

外国人材を受け入れると、教えることが山のようにあります。

ゴミ、交通、病院、災害、契約、税金、年金、銀行、携帯電話、買い物、近所付き合い、相談窓口。

真面目な担当者ほど、これを全部、最初に伝えようとします。12項目あるから、1項目40分ずつ。一見、公平で抜けがないように見えます。

でも、これをやると何も残りません。

この記事では、教える項目の「優先順位」の決め方を紹介します。

決まっているのは「項目」まで。順番は現場で決める

特定技能1号の受け入れでは、生活オリエンテーションが義務的な支援のひとつです。実施時間の目安は8時間以上で、説明すべき項目も運用要領で決められています。金融機関や医療機関の使い方、交通ルール、生活のルールやマナー、災害時の対応などです。

つまり、何を教えるかは決まっています。

決まっていないのは、それをどの順番で、どれだけ時間をかけて、どう確かめるかです。ここは現場ごとに違うので、どこにも書かれていません。

出入国在留管理庁の「生活・就労ガイドブック」や「生活オリエンテーション動画」のような公式の教材もあります。まだ見ていなければ、先に開いてみてください。それでも困るのは、順番と確かめ方が現場任せだからです。

均等に配ると、何も残らない

8時間を項目の数で割ると、何も残りません。

理由はNo.04で書いたとおりです。来日直後は、覚えることが多すぎて頭がいっぱいです。12項目を40分ずつ浴びた人の頭に残るのは、断片だけ。しかも、たいてい最初と最後だけです。

全部を説明したという記録としては正しい。でも、行動を変える方法としては機能しません。

優先順位は「生活が止まる順」で決める

では、何を先に教えるか。判断の基準はひとつで足ります。

それを知らないことで、明日、生活が止まるか。

この基準で並べると、4つの段階に分かれます。

段階 内容 例
1 命と体に関わるもの 災害時の避難、火事、救急車の呼び方、事故
2 お金を失うもの 交通違反の反則金、家賃の滞納、契約の自動更新、詐欺
3 生活が止まるもの ゴミが出せない、通勤路がわからない、近所ともめる
4 知っておくと便利なもの 祝日、季節の行事、割引、観光

ここで大事なのは、1段階目がいつも最優先とは限らないということです。

災害は明日起きるとは限りません。一方で、ゴミは明後日には出ます。自転車は今日から乗ります。夜の音は今夜から出ます。

だから実際には、「どれだけ大事か」と「どれだけ頻繁に起きるか」をかけ合わせて並べ直します。

その結果、この連載では次の2段構えを提案しています。

  • 最初の3日:ゴミ・自転車・夜の音の3つだけ
  • 最初の1か月:命と法律に関わることすべて

初日に渡すものは、覚えさせなくていい

ただし、3つに絞る前に、命に関わる3つだけは初日に渡してください。説明は短くて構いません。紙を渡して、その場で一度だけ使ってもらいます。合わせて5分です。

  1. 電話番号のカード:119番(救急・火事)、110番(警察)、あなたの携帯番号を大きな字で書き、財布に入れてもらう
  2. 寮の住所を書いた紙:建物名と部屋番号まで。119番に電話したとき、読み上げてもらうためのもの
  3. 最寄りの避難所の場所:地図に印をつけて渡す。歩いて行くのは4週目で構いません

「けがのときは、どっち?」と聞いて、119を指させれば通じています。

絞るのは「覚えてもらう項目」の話です。渡しておくだけで効くものは、絞る対象ではありません。

なぜ、覚える項目は3つなのか

「3つでは足りない」「あとで教えていなかったと言われる」。その心配はわかります。

でも、考えてみてください。12項目を伝えて3つしか残らないのと、3つを伝えて3つとも残るのとでは、結果は同じか、後者のほうがいいはずです。

しかも後者は、残る3つをこちらが選べます。12項目を一度に伝えると、何が残るかは運任せです。祝日の話だけ覚えていて、ゴミの曜日を忘れている、ということが実際に起きます。

絞る3つは、次の条件で選びます。

  • 毎日、または毎週、必ず起きる
  • 間違えると、外から苦情が来る
  • やり方が単純で、3日で覚えられる

この3条件で選ぶと、ゴミ・自転車・夜の音が残ります。

残りは「いつ教えるか」を先に決めておく

絞るというのは、捨てることではありません。後に回すということです。そして、後に回すなら、いつに回すかを先に決めておきます。

時期 教えること
1週目 通勤経路、買い物、寮の設備
2週目 銀行、携帯電話、家賃の払い方
3週目 病院のかかり方、保険証
4週目 災害時の行動、避難所
2か月目 税金、年金、各種手続き
3か月目 相談窓口と連絡先の再確認

これは寮の掲示板ではなく、あなたの手帳に貼ってください。相手ではなく、あなたが忘れないためのものです。

「なぜ」を先に言うと、繰り返しが減る

もうひとつ、1つの項目の中での順番もあります。

「生ごみは水曜と土曜。プラスチックは月曜。袋はスーパーの指定袋で」。正確ですが、理由がないので定着しません。理由のないルールは、少しでも面倒だと省かれます。これは国籍に関係なく、人間の性質です。

そこで、先に理由を言います。

「日本のごみは、種類ごとに処理する場所と方法が決まっています。混ざっていると、決められた方法で処理できません。だから、出すときに分けます」

理由を知っていると、細かいルールを忘れても、自分で判断できるようになります。

さらに効くのが、ベトナム側の事情と並べることです。

「ベトナムでも、2025年から分別が始まりましたよね。日本は先に始めたので、細かくなっています」

こう言うと、「知らないのは自分だけではない」とわかり、面子が守られます。面子が守られると、質問が出るようになります。

まとめ

  • 生活オリエンテーションで決まっているのは項目まで。順番と確かめ方は現場で決める
  • 8時間を均等に配ると、何も残らない
  • 優先順位は「生活が止まる順」。大事さと頻度をかけ合わせる
  • 命に関わる3つは初日に紙で渡す。覚えてもらうのはゴミ・自転車・夜の音の3つ
  • 残りは「いつ教えるか」を先に決める。「なぜ」を先に言う

次回は、生活オリエンテーションの8時間を、4週間にどう配分するかの具体例を紹介します。

連載「外国人材の生活支援」目次

この連載のもとになった本

この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。

本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。

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出典:特定技能の生活オリエンテーション|8時間・必須項目・確認書(行政書士法人office TREE)

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