新しいことを始めた最初の数日は、楽しくて続きます。ところが、忙しい日や気分が沈んだ日が一度来ると、そこで途切れてしまう。誰にでもある話です。
この連載では、AIに話して考えを整理する方法と、それを相手に届ける方法をお伝えしてきました。けれども、どんな方法も続かなければ身につきません。
本編の最終回となる今回は、言語化の練習を気合に頼らず続けるための仕組みをお伝えします。
やる気は、いちばん当てにならない
何かを続けようとするとき、多くの人は「明日から毎日やるぞ」と気持ちで決めます。けれども、やる気ほど当てにならないものはありません。
気分のいい日もあれば、何もしたくない日もあります。上司に注意された日、体調が悪い日に、同じやる気を出せる人はいません。
仕組みは、やる気がゼロの日にも動く
機械の自動化では、人がその場で判断しなくても決まった動きをするように仕組みを組みます。習慣も同じで、やる気がない日にも自然に手が動く形にしておくことが大切です。
目指すのは、「今日もやろう」と決める必要すらない状態です。歯みがきをするかどうかを毎朝迷わないのと同じです。
すでにある習慣の「すき間」に埋め込む
では、どうすれば迷わず続けられるのでしょうか。私がおすすめしているのは、すでに毎日していることのすき間に、AIへの5分の話しかけを埋め込むことです。
わざわざ机に向かって「さあ、言語化の時間だ」と始める必要はありません。毎日必ず訪れる「待ち時間」を見つけて、そこに乗せるのです。
| すでにある習慣 | 埋め込む5分 |
|---|---|
| 朝、コーヒーのお湯が沸くのを待つ | 今日いちばん気になっていることを話す |
| 駅から家まで歩く | 今日引っかかったことを吐き出す |
| 音声配信や動画を聞き終わる | 「自分の場合なら」をつけて感想を話す |
| 寝る前に歯をみがいた後 | 明日やることを一つだけ声に出して決める |
ポイントは、「〇〇したら、話す」と、きっかけと行動をセットにすることです。きっかけが毎日必ず来るものなら、思い出す努力がいりません。
全部やらなくていい
表の中から、一つだけ選んでください。いくつも同時に始めると、どれかが崩れたときに全体が崩れます。
一つが当たり前になってから、次を足せば十分です。退屈だった待ち時間が、頭の中を片づける時間に変わっていきます。
すぐに「すっきり」が返ってくるから続く
続く習慣には、もう一つ共通点があります。やったあとに、すぐ手応えがあることです。
運動の効果は何週間も先にしか見えませんが、AIへの話しかけは違います。話して数秒後には、整理された形が返ってきて、「なるほど、自分はこれを気にしていたのか」とすっきりします。
話す、整理される、すっきりする
この「話す → 整理される → すっきりする」が一回の中で完結することが、続けやすさの理由です。手応えがすぐあるので、明日もやろうと思えます。
逆に言えば、手応えが薄い日が続いたら、頼み方を見直す合図です。「3つに整理して」を「いちばん大事なことを一つだけ」に変えるなど、少し形を変えてみてください。
途切れたときの戻り方
どんなに仕組みを整えても、続かない日は必ず来ます。出張、体調不良、家族の用事。大事なのは、途切れないことではなく、途切れたあとに戻れることです。
「2日続けて休まない」だけを決める
私がおすすめしているのは、「1日休むのはよい。ただし2日続けては休まない」という決め方です。毎日やると決めると、一度休んだだけで「もうだめだ」と感じてしまいます。
1日休んでも、次の日に戻れば習慣は切れません。完璧に続けることより、戻ってくることのほうを大切にしてください。
30秒だけの日をつくる
疲れている日は、5分ではなく30秒だけでかまいません。「今日は疲れた。理由は会議が長かったこと」と一言話して、AIに整理を頼まずに終わってもいいのです。
マイクのボタンを押す、という動作だけを守れれば、次の日に5分へ戻るのは難しくありません。小さくしてでも、きっかけと行動のつながりを切らないことが大切です。
週に一度、ふり返る
もう一つおすすめなのが、週末に一度、その週の話を見返すことです。AIのアプリによっては、過去の会話を一覧で見られるようになっています。
1週間分を見返すと、「月曜はいつも同じことで引っかかっている」のように、自分の繰り返しのパターンに気づくことがあります。気になったら、「今週の話から、私がくり返し気にしていることを一つ挙げてください」とAIに頼んでみてください。
続けた先にあるもの:自分だけの「堀」
この練習を続けた先には、何があるのでしょうか。私は、投資の世界の「経済的な堀(モート)」という言葉で説明しています。
経済的な堀とは、お城のまわりの堀のように、ほかの会社が簡単にはまねできない強みのことです。投資の調査会社モーニングスターは、この強みがどれだけ長く続くかで企業を評価しています。
自分の言葉は、まねされない
毎日、自分の違和感や気づきを言葉にしていくと、少しずつ「自分にしか言えないこと」がたまっていきます。誰かが広めた流行りの言葉ではなく、自分の経験から出てきた言葉です。
これは、ほかの人が簡単にはまねできません。同じ経験をしていないからです。言葉にし続けることが、そのまま自分の周りに堀を掘ることになります。

比べなくていい場所に立てる
自分の言葉を持つと、誰かと同じ土俵で競う必要が減っていきます。同じような意見を、同じような言い方で言い合うのではなく、自分の経験にもとづく見方を出せるからです。
すると、他人の評価や職場の空気に振り回されることも少なくなります。第1回でお話しした「選ぶ自由」は、ここにつながっています。
今日、ひとつだけ始める
最後に、お願いがあります。この記事を読み終えたら、ぜひ一度、AIのアプリを開いてマイクのボタンを押してみてください。
話す内容は、「この記事を読んで、今こう感じている」で十分です。続けるかどうかを決めるのは、そのあとでかまいません。
知っていることと、やってみることの間には、大きな差があります。最初の5分を一度やってみると、その差は思ったよりあっさり埋まります。
本編5回でお伝えしたこと
最後に、本編の5回をひと続きの流れとして並べておきます。迷ったときは、どの段階でつまずいているかを確かめてみてください。
- 言葉にする意味を知る:もやもやに名前をつけると、自分で選べるようになる(第1回)
- AIを整理する係にする:丸投げせず、話して整理してもらう(第2回)
- 5分の練習にする:吐き出す、整理してもらう、自分の言葉に組み直す(第3回)
- 相手に届ける:相手の不安を先回りして、答えを提案に入れておく(第4回)
- 続ける仕組みにする:待ち時間に埋め込み、途切れても戻る(第5回)
まとめ
- やる気は当てにならない。やる気がない日にも動く仕組みにする
- すでにある習慣の待ち時間に、5分の話しかけを埋め込む。「〇〇したら、話す」とセットにする
- 埋め込むのは一つだけ。当たり前になってから次を足す
- 話してすぐに整理が返ってくる手応えが、続けやすさを支える
- 自分の言葉を積み重ねることが、ほかの人にまねされない強みになる
次回は最終回として、この連載のもとになった本を紹介します。ブログでは書ききれなかった内容もあわせてお伝えします。
連載「AIで言語化トレーニング」目次
- No.01 言語化は才能ではなく技術。「なんとなく」を言葉にすると、選ぶ自由が戻ってくる
- No.02 AIに丸投げせず「しゃべる」。音声入力で、整える前の考えをAIに渡す
- No.03 1日5分、AIに話すだけ ― 吐き出す・整理してもらう・聞いた話を自分の言葉にする
- No.04 相手の「やらない理由」をAIで先回りする ― 提案が通る伝え方
- No.05 気合に頼らず「待ち時間」に組み込む ― 言語化を続ける仕組み(この記事)
- No.06(最終回)連載のもとになった本『AI×言語化の教科書』の紹介
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『AI×言語化の教科書 ~1日5分の脳トレで「伝わらない」から解放され、「選択の自由」を手に入れる~』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、AIに文章を任せるのではなく、AIに話しかけて自分の考えを整理する「1日5分の言語化脳トレ」を、制御エンジニアと個人投資家の視点からまとめました。もやもやに名前をつける考え方から、相手の迷いを先回りする伝え方、毎日の待ち時間に組み込んで続ける仕組みまでを一冊で扱っています。
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出典:Morningstar「How to Measure a Company’s Competitive Advantage」

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