ゴミの出し方を伝えるために、多くの現場がまず張り紙をします。
翻訳アプリで訳した文を並べ、3か国語で丁寧に作る。寮の玄関にしっかり貼る。
そして、ほとんど効果がないことに気づきます。
この記事では、張り紙が読まれない4つの理由と、相手の日本語力をどう確かめればいいか、そして通訳を入れても伝わらないことがある理由を紹介します。
張り紙が読まれない4つの理由
1. 長すぎる
翻訳アプリで日本語の文章をそのまま訳すと、丁寧な長文になります。「〜していただきますようお願いいたします」は、訳しても長いままです。長い文は読まれません。これは日本人でも同じです。
2. 漢字が読めない
「可燃」「不燃」「資源」「収集」「厳守」。日常会話にはあまり出てこない言葉で、まだ習っていないことがあります。読めなければ、その部分は空白と同じです。
3. 貼る場所が行動と結びついていない
寮の玄関に貼っても、ゴミを出すのは集積所です。行動する場所と情報がある場所が離れていると、思い出せません。
4. 見慣れると風景になる
貼った直後の数日は目に入りますが、1週間もすると壁の一部になります。これも日本人と同じです。
張り紙が無駄だという話ではありません。文字を減らし、写真を使い、行動する場所に貼り、定期的に貼り替える。この4つを満たせば、張り紙は機能します。
N5・N4で、何ができるのか
相手の日本語がどのくらいのレベルなのかを具体的に知らないまま話すと、届いていないことに気づけません。
日本語能力試験(JLPT)の公式な目安を、ざっくりまとめると次のとおりです。
| レベル | 読む | 聞く |
|---|---|---|
| N5 | ひらがな・カタカナと、基本的な漢字で書かれた決まった文が読める | 身近な場面で、ゆっくり話される短い会話から必要な情報が聞き取れる |
| N4 | 基本的な語彙や漢字で書かれた、身近な話題の文章が読める | 日常的な場面で、ややゆっくり話される会話がほぼ理解できる |
ここに大きな落とし穴があります。
試験が測っているのは「読む」と「聞く」だけです。話す力と書く力は、直接は測っていません。
N4に合格している人が、N4相当の会話ができるとは限りません。逆に、試験を受けていない人がよく話せることもあります。級は目安にはなっても、保証にはなりません。
だから、「うちの実習生はだいたいN4くらい」という前提で全員に同じ話し方をすると、必ず誰かが取り残されます。
つまずきやすい言葉と、言い換えの例
次のような言葉は、漢語で、抽象的で、日常会話に出てこないという共通点があります。
- ゴミの説明:分別、徹底、厳守、収集、可燃、不燃、資源、指定袋、集積所
- 注意の言葉:遵守、配慮、自粛、留意、速やかに
- 書き言葉:該当、相当、原則として、以下の通り
自分が「簡単に説明した」と思っている文章の中に、これらが入っていないか、一度見直してみてください。
言い換えのコツは、日常の動作の言葉に置き換えることです。
| つまずきやすい言い方 | 言い換え |
|---|---|
| 分別してください | 分けてください |
| 可燃ごみ | 燃やすごみ(実物を指さすのが一番確実) |
| 収集日は水曜日です | 水曜日の朝、ゴミを出します |
| 厳守してください | 必ずしてください |
| 速やかに連絡してください | すぐに電話してください |
級を当てるのではなく、通じる言葉を確かめる
では、現場では何をすればいいのか。級を推測する必要はありません。生活ルールの言葉が通じるかどうかだけを確かめます。数分で終わります。
- 指定袋を見せて「これ、何?」と聞く。答えられなければ、袋の呼び方から教える
- 「ゴミを分けます」と言って、2つの袋を指してもらう。指せなければ、「分ける」がまだ通じていない
- 時計を見せて「8時」と言い、その時刻を指してもらう
通じた言葉には印をつけ、通じなかった言葉は言い換える。これを1枚のメモにして、引き継ぎ資料に入れておくと、次の担当者が同じ確認をやり直さずに済みます。
これは試験ではありません。こちらの話し方を決めるための確認です。相手に「できない」と感じさせないよう、実物を使って軽くやってください。
通訳を入れても、伝わらないことがある
「通訳を入れたから大丈夫」。これも、しばしば裏切られます。言葉の壁は下がりますが、別の問題が残るからです。
- 通訳者が、その地域の生活ルールを知らない:「指定袋」を「決められた袋」と訳されると、聞き手は「どの袋?」となります。先に通訳者に実物を見せておけば、3分で解決します
- 人数が増えると、質問が出ない:通訳者に「あとで一人ずつ、わからなかったところを聞いてもらえますか」と頼んでおきます
- 通訳者が本人と近い関係にある:同じ組織の先輩が通訳だと、給与や寮への不満、体調不良は出てきにくくなります。通訳を介さずに相談できる窓口を、ひとつは用意しておきます
それでも、大事な話ほど通訳は必要です。契約、事故や病気の対応、在留資格の話は、やさしい日本語だけでは足りません。
日常の生活ルールはやさしい日本語と実物で、重い話は通訳で。この使い分けが基本です。
まとめ
- 張り紙は「文字を減らす・写真・行動する場所・貼り替え」で機能する
- JLPTは「読む」「聞く」しか測っていない。級は保証にならない
- 漢語の多い言葉は、日常の動作の言葉に言い換える
- 級を当てるより、生活ルールの言葉が通じるかを数分で確かめる
- 生活ルールはやさしい日本語と実物で、重い話は通訳で
次回からは、教える「順番」の決め方に入ります。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04 「はい、わかりました」は同意ではない ― 教えたと伝わったの間にある5段階
- No.05 張り紙が読まれない4つの理由と、N5・N4でできること(この記事)
- No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める
- No.07〜No.13 公開予定
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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