「寮の子が、警察に止められたそうです」
そんな電話が、生活支援の担当者にかかってくることがあります。
夜、ライトをつけずに走っていた。友だちを後ろに乗せていた。車道の右側を走っていた。
これまでは「気をつけてね」で済んでいた話です。
ですが2026年4月1日から、自転車の交通違反にも「青切符」が導入されました。気をつける話が、現金が出ていく話に変わったのです。
制度が始まって半年。外国人材を受け入れている会社では、「何を、どう教えればいいのか」があらためて課題になっています。
この記事では、自転車のルールを外国人材に伝えるときの「順番」と「言い方」を紹介します。
青切符で何が変わったのか
まずは制度の要点だけ確認しておきます。
- 2026年4月1日から、自転車の交通違反に青切符(交通反則通告制度)が適用されました
- 対象は16歳以上です
- 対象の違反は113種類あります
- 反則金を納めれば刑事手続きには進まず、前科もつきません
- 酒酔い運転や酒気帯び運転など重い違反は、青切符ではなく刑事事件として扱われます
主な反則金は次のとおりです。
| 違反 | 反則金 |
|---|---|
| スマホを見ながらの運転(携帯電話使用) | 12,000円 |
| 信号無視 | 6,000円 |
| 車道の右側通行(通行区分違反) | 6,000円 |
| 無灯火 | 5,000円 |
| 一時不停止 | 5,000円 |
| 傘さし運転・イヤホン使用 | 5,000円 |
| 二人乗り | 3,000円 |
| 並進(横に並んで走る) | 3,000円 |
外国人材は、日本人より自転車に乗る機会が多いことがあります。寮から工場への通勤、スーパーへの買い物。車を持たない人にとって、自転車は生活そのものです。
狙われているという話ではありません。乗る回数が多く、ルールを知る機会が少なかった、というだけです。
「ベトナムでは大丈夫だった」と決めつけない
ここでひとつ注意があります。
「向こうでは二人乗りが普通だから」という話にしないでください。ベトナムにも交通ルールはあります。文化の違いで説明しようとすると、事実ともずれますし、本人もいい気はしません。
確かなのは、「日本のルールを知っているとは限らない」ということだけです。しかも、どこまで知っているかは人によって違います。
だから、最初に聞いてください。質問は3つで十分です。
- 「自転車、乗ったことはありますか」
- 「夜、ライトはつけていましたか」
- 「二人で乗ったことはありますか」
答えを聞いてから、足りないところだけを補えば大丈夫です。全員に同じ説明をする必要はありません。
教えるのは6つだけ
113種類は、だれも覚えられません。最初に教えるのは6つに絞ります。
前半の2つは、命に関わるものです。金額の大小ではなく、守らないと事故につながるから先に伝えます。
- 信号:赤で止まる(6,000円)
- 一時停止:「止まれ」の標識では、足を地面につけて止まる(5,000円)
後半の4つは、毎日の生活で起きやすいものです。
- ライト:夜は必ずつける(5,000円)
- 左側:道路の左を走る(右側は6,000円)
- 一人:二人乗りしない(3,000円)
- スマホを見ない:乗っている間は使わない(12,000円)
ほかの違反も反則金の対象ですが、まずはこの6つから始めます。
行為より先に、金額を言う
伝えるときは、言う順番が大切です。
「二人乗りはやめてね」ではなく、「二人乗りは、3,000円」と言います。
脅すためではありません。数字のほうが、言葉の壁を越えて伝わるからです。日本語がまだ苦手な人でも、「3,000」は読めます。
さらに効くのが、その金額の重さを本人と一緒に確かめることです。
こちらで勝手に「何日分の給料」と決めないでください。手取りも勤務日数も、人によって違います。本人の給与明細を一緒に見て、12,000円が何時間分の働きにあたるかを、その場で本人に計算してもらいます。
自分で出した数字は、人から聞いた数字よりもずっと記憶に残ります。
説明より、寮の前で5分の実地確認
口で説明するより、実物を見せたほうが早く伝わります。
- 寮の前に自転車を1台出す
- 本人にライトのスイッチを押してもらい、点くか確かめる。ブレーキも一緒に確認する
- 道路に出て、左側を指さして「こっち」と言う
- 荷台を指さして「一人」と言う
- 近くの「止まれ」の標識まで一緒に行き、足をついて止まってもらう
これで5分ほどです。
ひとつ大事なことがあります。ライトが壊れた自転車を渡しておいて、無灯火を叱るのは筋が通りません。点かなければ、その場で電池を替えるか修理に出してください。
防犯登録と自転車保険も、このときに
会社の自転車を貸す場合は、防犯登録も確認しておきましょう。
登録がないと、職務質問されたときに盗難車を疑われます。会社名義の自転車なら、名義と乗っている人が違うので、説明も必要になります。貸した記録を残し、本人が「会社から借りている」と言えるようにしておきます。
自転車保険も、多くの自治体で加入が義務づけられています。会社が用意するのか、本人が入るのかを決めて伝えてください。
そのまま見せる一言(日本語とベトナム語)
読み上げる必要はありません。画面を見せて、本人に指さしてもらってください。
- 夜、自転車に乗るときは、ライトをつけてください。
- Vui lòng bật đèn khi đi xe đạp vào ban đêm.
- 警察に止まるように言われたら、安全に止まってください。その後、私に連絡してください。
- Nếu cảnh sát yêu cầu dừng xe, hãy dừng xe an toàn. Sau đó, vui lòng liên hệ với tôi.
警察に止められるのは、本人にとってとても怖い経験です。「すぐに連絡できる人がいる」とわかっているだけで、不安はずいぶん小さくなります。
道路標識の見方は、以前の記事「ベトナム人向けの日本の道路標識解説」で、日本語とベトナム語でまとめています。あわせて使ってください。
まとめ
- 2026年4月から、16歳以上の自転車の違反に反則金が科されるようになった
- 最初に3つ質問して、足りないところだけ教える
- 教えるのは6つ。命に関わる信号と一時停止が先
- 行為より先に金額を言い、給与明細で重さを本人に計算してもらう
- 寮の前で5分、実物で確かめる
次回は、2027年4月に始まる育成就労制度と、生活支援の関係を取り上げます。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える(この記事)
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04〜No.13 公開予定
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、自転車のほかにゴミ出し・夜の音・病院・災害・お金のことまで、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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