会議で「どう思う?」と聞かれて、頭の中には考えがあるのに、口から出てくるのは「なんというか、今のままだと少し…」という言葉だけ。そんな経験はないでしょうか。
あとで一人になってから「本当はこう言いたかった」と思いつく。けれども、そのときにはもう話は先に進んでいます。
この連載では、そうした「言葉にできないもどかしさ」を、AIを相手に1日5分話すことで少しずつほどいていく方法をお伝えします。初回は、そもそも言語化とは何か、なぜそれが自分の人生を選ぶことにつながるのかを考えます。
伝わらないのは、能力や性格のせいではない
言葉がうまく出てこないと、多くの人は「自分は語彙が少ないから」「話すのが苦手な性格だから」と考えます。けれども、私はそうは思いません。
足りないのは才能ではなく、頭の中のものを言葉に置き換える手順です。手順は、練習すれば誰でも身につけられます。
エンジニアの目で見ると「出力の不具合」
私は長く、工作機械や産業用ロボットを動かす制御の仕事をしてきました。この仕事では、センサーが感じた「なんとなく熱い」を、「何度」という数字に置き換えないと機械を動かせません。
人の考えも、これに似ています。頭の中に材料はあるのに、それを言葉という形にして外へ出す段階でつまずいている。いわば、入力ではなく出力の段階の不具合です。
不具合なら、直し方があります。どこで止まっているのかを見つけ、手順を足していけばよいのです。
手順が足りないだけなら、年齢や経験に関係なく、今日から身につけ始められます。この連載では、その手順を一つずつ、毎日の生活の中で試せる形にしてお伝えしていきます。
言葉にしないと、他人の言葉で生きることになる
言語化が大事なのは、仕事で評価されるためだけではありません。もっと大きな理由があります。
自分の考えを言葉にできていないと、人は代わりに他人の言葉を使います。SNSで見た「こう生きるのが正解」や、職場の「なんとなくの空気」が、いつの間にか自分の判断の基準になってしまうのです。
「快・不快」に名前がないと、テンプレートに合わせてしまう
たとえば、仕事でいつもイライラしているとします。その正体は、忙しさへの不満でしょうか。正当に評価されていないという感覚でしょうか。
それとも、毎日同じ流れが続くことへの退屈さかもしれません。正体によって、取るべき行動はまったく違います。
正体に名前がついていないと、「みんな忙しいから仕方ない」という誰かの言葉で片づけてしまいがちです。言葉にできないものは、自分で選びようがないのです。
感情を言葉にすると、少し離れて見られる
私はエンジニアの仕事と並行して、18年以上、個人で投資を続けてきました。そこで何度も実感したのが、感情を言葉にすることの効き目です。
相場が大きく下がると、頭の中は「怖い」「もう売りたい」でいっぱいになります。これは自然な反応ですが、そのまま動くと、たいてい後悔します。
「今、自分は何を感じているか」を一文にする
そこで私は、慌てたときほど状況を一文にするようにしています。「今、自分は含み損が増えたことに恐怖を感じている。けれども、決めておいた売るルールにはまだ届いていない」。
こう書けた瞬間に、感情は自分そのものではなく、観察できる「データ」に変わります。データになれば、決めたルールと比べて、次の行動を選べます。
これは制御の仕事でいう「フィードバック制御」と同じ考え方です。今の状態を測り、目標とのずれを確かめ、ずれを小さくする操作を決めます。測れないもの、つまり言葉にできないものは、制御できません。

同じ行動でも、言葉が変わると「選んだ」感覚が残る
言語化がもたらす変化は、行動を大きく変えることだけではありません。同じ行動でも、自分で選んだと思えるかどうかが変わります。
| 言葉にする前 | 言葉にした後 |
|---|---|
| 上司が怖いから、言われたとおりにする | プロジェクトを進めたいので、今回は上司の案を採用すると決める |
| みんなが残っているから、残業する | 明日の締め切りを守るために、今日は1時間だけ残ると決める |
| 断れなくて、頼まれごとを引き受ける | この人との関係を大事にしたいので、今週だけ手伝うと決める |
左と右で、している行動は同じです。けれども右のほうは、理由を自分の言葉で持っています。
理由を持っていれば、状況が変わったときに「では、次はどうするか」をまた自分で選べます。これが、この連載でいう「選ぶ自由」です。
難しい言葉はいらない。自分にわかる名前をつける
ここまで読んで、「そんなに上手に言葉にできる自信がない」と感じた方もいるかもしれません。安心してください。
言語化とは、難しい言葉を並べることではありません。自分の中の感覚に、自分が納得できる名前をつけることです。最初は「月曜の朝の重さ」のような、自分にしか通じない名前でもかまいません。
ピントは一度で合わなくていい
顕微鏡のピントを少しずつ合わせるように、「なんか嫌だ」を「何が」「いつ」「なぜ」と少しずつはっきりさせていけば十分です。一度で正解の言葉にたどり着く必要はありません。
そして、このピント合わせを手伝ってくれる相手として、今はAIがいます。こちらがまとまらないまま話しかけても、「それは○○への期待と、○○への不安が混ざっている状態かもしれません」と、いったん形にして返してくれます。
言葉にできたかを確かめる3つの問い
自分の考えが言葉になったかどうかは、次の3つの問いで確かめられます。どれか一つでも答えられれば、ピントは前より合っています。
- 何が:引っかかっているのは、人か、仕事の中身か、進め方か
- いつから:最初に「おかしい」と感じたのは、どの場面だったか
- どうなれば:何がどう変われば、このもやもやは消えるか
たとえば「会議がつらい」というもやもやに、この3つを当ててみます。
何が:意見を言う前に結論が決まっていること。いつから:担当が変わった先月から。どうなれば:決める前に一度、意見を聞く時間があれば。
ここまで言えれば、上司に何を相談すればよいかが見えてきます。「つらい」のままでは、相談のしようがありません。
3つめの問いが、いちばん大事
特に大事なのは、3つめの「どうなれば」です。不満を言葉にするだけでなく、望む状態を言葉にできると、次の行動を自分で選べるようになります。
もちろん、最初からすぐに答えられなくてかまいません。答えられない問いがあること自体が、どこにピントが合っていないかを教えてくれます。
AIは、この問いを一緒に考える相手にもなります。ただし、AIに考えを丸ごと任せるのとは違います。どう付き合えばAIが考える手伝いをしてくれるのかは、次回くわしくお伝えします。
まとめ
- 言葉が出てこないのは、才能や性格のせいではなく、頭の中を言葉に置き換える手順が足りないだけ
- 自分の考えを言葉にしていないと、他人の言葉や職場の空気が判断の基準になってしまう
- 感情を一文にすると、観察できるデータになり、決めたルールと比べて行動を選べる
- 同じ行動でも、理由を自分の言葉で持つと「自分で選んだ」と思える
- 難しい言葉はいらない。自分が納得できる名前をつけ、少しずつピントを合わせればよい
次回は、AIに文章を書かせるのではなく、AIに向かって「しゃべる」ことをおすすめする理由をお伝えします。書くと消えてしまう、考えのいちばん大事な部分の話です。
連載「AIで言語化トレーニング」目次
- No.01 言語化は才能ではなく技術。「なんとなく」を言葉にすると、選ぶ自由が戻ってくる(この記事)
- No.02 AIに丸投げせず「しゃべる」。音声入力で、整える前の考えをAIに渡す
- No.03 1日5分、AIに話すだけ ― 吐き出す・整理してもらう・聞いた話を自分の言葉にする
- No.04 相手の「やらない理由」をAIで先回りする ― 提案が通る伝え方
- No.05 気合に頼らず「待ち時間」に組み込む ― 言語化を続ける仕組み
- No.06(最終回)連載のもとになった本『AI×言語化の教科書』の紹介
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『AI×言語化の教科書 ~1日5分の脳トレで「伝わらない」から解放され、「選択の自由」を手に入れる~』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、AIに文章を任せるのではなく、AIに話しかけて自分の考えを整理する「1日5分の言語化脳トレ」を、制御エンジニアと個人投資家の視点からまとめました。もやもやに名前をつける考え方から、相手の迷いを先回りする伝え方、毎日の待ち時間に組み込んで続ける仕組みまでを一冊で扱っています。
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出典:著者の経験にもとづく(制御設計の仕事、18年以上の個人投資)

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