「隣の部屋の外国人の声がうるさい」
夜の音の苦情は、ゴミと並んで多い相談です。
でも、これをそのまま「うるさいよ」と本人に伝えると、たいてい逆効果になります。
この記事では、夜の音の伝え方と、ゴミ・自転車・夜の音を教えるときによくある失敗7つ、そして最初の3日間の進め方を紹介します。
夜の音は、マナーではなく建物の問題
ベトナムの住宅はレンガ造りが多く、音が漏れにくい構造です。一方、日本の社宅や寮に多い木造や軽量鉄骨の建物は、壁も天井も薄く、生活音が隣に届きやすくなっています。
つまり、同じ音量で話しても、結果が違うのです。本人は何も変えていません。建物が変わっただけです。
しかも、自分の声が隣にどう聞こえているかは、本人には確かめようがありません。集合住宅に住んだ経験がなく、上下左右に他人が住んでいる感覚そのものがない人もいます。
決めつけずに、「前の家は、隣の音が聞こえましたか」と聞いてみてください。
「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える
「うるさい」は評価の言葉です。評価は面子を傷つけ、面子を傷つけると、それ以降の情報が止まります(No.04)。
代わりに、事実を言います。
「この建物は、壁が薄いです。あなたの声は、隣の部屋に聞こえています」
これは誰も責めていません。建物の話です。相手は「自分が悪い」ではなく「そういう建物なのか」と受け取り、自分で音量を下げます。
いちばん速いのは、5分の実演
言葉より確実なのが、実演です。
- 本人に隣の部屋に立ってもらう
- あなたが本人の部屋で、普段の音量で話す(またはスマートフォンで動画を流す)
- 「聞こえますか」と聞く
聞こえます。これで終わりです。説明はいりません。
そのうえで、時刻を数字で決めます。「夜遅く」では通じません。「夜10時から朝7時までは、静かにする」と伝え、その時間にやめてほしいことを3つだけ挙げます。
- 大きな声での通話
- 音を出しての動画
- 洗濯機と掃除機(夜勤明けに回して苦情になることがあります)
家族との通話は、禁止しない
いちばん多いのは、母国の家族とのビデオ通話です。時差の関係で夜になり、遠くの相手と話すと、人は自然に声が大きくなります。
でも、これを禁止してはいけません。家族との通話は、心の支えです。奪えば、別の形で問題が出ます。
代わりに、イヤホン付きマイクを会社から1つ支給してください。相手の声や動画の音がスピーカーから出なくなるだけでも、部屋から出ていく音はひとつ減ります。本人の話し声は小さくならないので、声の大きさ、通話する場所、時間帯を一緒に決めてください。
「静かにしろ」より「これを使って」のほうが、速くて角が立ちません。
そのまま見せる一言(日本語とベトナム語)
- この建物は壁が薄く、隣の部屋に話し声が聞こえます。
- Tường của tòa nhà này mỏng, nên người ở phòng bên cạnh có thể nghe thấy tiếng nói chuyện.
- 夜10時から翌朝7時までは、静かにしてください。
- Vui lòng giữ yên lặng từ 10 giờ tối đến 7 giờ sáng hôm sau.
- 家族と話しても大丈夫です。声と端末の音量を小さくしてください。
- Bạn vẫn có thể nói chuyện với gia đình. Vui lòng nói nhỏ và giảm âm lượng của thiết bị.
禁止だけを並べると、話すこと自体をやめてしまう人がいます。最後に「話しても大丈夫」を必ず見せてください。
よくある失敗、7つ
ゴミ・自転車・夜の音を実際に教えてみると、必ずどこかでつまずきます。どれも善意から生まれる失敗です。
| 失敗 | 代わりにすること |
|---|---|
| 1. 分別表を渡して終わりにする | 「生ごみ」と「それ以外」の2つから始め、1週間に1つずつ増やす |
| 2. 全種類を一度に教える | 覚える量を絞る。量が多いと、かえって残らない |
| 3. 袋の中身を人前で見せる | 個別に、あとで、静かに。「これは、こっち」と指さすだけ |
| 4. 曜日だけ伝えて、種類を言わない | 「生ごみを出す日は、水曜と土曜」と種類から入る |
| 5. 整備していない自転車を渡す | 貸す前に、ライト・ブレーキ・タイヤ・防犯登録を5分で点検する |
| 6. 「うるさい」と評価の言葉で言う | 「壁が薄い」「隣に聞こえる」と事実を言う |
| 7. 一度言って、確認しない | 袋を渡して「どっち?」、時計を指して「何時から?」と30秒で確かめる |
6つめは、ほかの場面にも使えます。「汚い」ではなく「ここに置きます」。「遅い」ではなく「8時までです」。「違う」ではなく「こっちです」。評価をやめて、事実と行動だけを言う。これは相手のためだけでなく、あなた自身が消耗しないためでもあります。
失敗しても、やり直せます。人前で叱ってしまったなら、あとで個別に「さっきは言い方がよくなかった」と言えばいい。言い直せる関係を保つことのほうが、最初から完璧にやることより大事です。
最初の3日間の進め方
| 日 | 教えること | 時間 |
|---|---|---|
| 1日目の夜 | 夜の音(隣の部屋での実演) | 5分 |
| 2日目 | ゴミ(集積所まで一緒に歩く。袋を買いに行くなら+15分) | 15分 |
| 3日目 | 自転車(寮の前で実物を使って。詳しくはNo.01) | 5分 |
夜の音を1日目にするのは、その晩から起きるからです。到着したその夜に家族へ電話をかけるのは、ほぼ確実です。
そして3日目の夜に、3つまとめて確認します。
- ゴミ袋を1つ渡して「どれに入れる?」
- 自転車を指さして「夜は?」
- 時計を指さして「何時から静か?」
3つとも答えられたら、最初の3日は成功です。答えられないものがあれば、その1つだけをもう一度やります。
なぜ3日で終わらせるのか
- 苦情が来る前に間に合わせるため:最初の苦情が来てから教えると、相手は「怒られた」記憶と一緒にルールを覚えます
- 来日直後は覚える気があるため:1週間たつと日常が始まり、新しい情報が入りにくくなります
- 3日なら、あなたが続けられるため:1回5〜15分の作業なら、次の受け入れでも同じことができます
再現できる仕組みだけが、仕組みです。
まとめ
- 夜の音は、マナーではなく建物の問題。「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える
- 5分の実演がいちばん速い。時刻は「夜10時から朝7時」と数字で
- 家族との通話は禁止せず、イヤホンを支給する
- よくある失敗7つは、どれも善意から。失敗しても言い直せばいい
- 夜の音・ゴミ・自転車を3日で伝え、3日目の夜にまとめて確認する
次回は、最初の1か月で伝える、命とお金に関わることを取り上げます。
連載「外国人材の生活支援」目次
- No.01 自転車の青切符が始まって半年。外国人材には「金額から」伝える
- No.02 2027年4月に育成就労制度が始まる。生活支援は定着率そのものになる
- No.03 ゴミ出しが何度言っても直らないのは、教え方が下手だからではない
- No.04 「はい、わかりました」は同意ではない ― 教えたと伝わったの間にある5段階
- No.05 張り紙が読まれない4つの理由と、N5・N4でできること
- No.06 全部教えるから何も残らない ―「生活が止まる順」で優先順位を決める
- No.07 生活オリエンテーション8時間の配分例 ― 90分×4回+60分×2回を4週間に分ける
- No.08 やさしい日本語の5原則と、避けたい伝え方3パターン
- No.09 ゴミ出しは4つの確認で教える ― 何の日・どの袋・いつまで・どこに
- No.10 夜の音は「うるさい」ではなく「壁が薄い」と伝える ― よくある失敗7つと最初の3日(この記事)
- No.11 最初の1か月で伝える、命とお金に関わること
- No.12 一度で終わらせない ― 先輩に説明役を渡し、引き継ぎを残す
- No.13 本の紹介(公開予定)
この連載のもとになった本
この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。
本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。
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