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【外国人材の生活支援】No.11 最初の1か月で伝える、命とお金に関わること ― 交通・病院・災害・お金・心

公民館の前で、支援担当者と外国人材の若者二人が防災リュックを背負い、スマートフォンを一緒に見ているイラスト ビジネス勉強会

最初の3日で、ゴミ・自転車・夜の音の3つを伝えました(No.09、No.10、No.01)。ここまでで、外から来る苦情はかなり減らせます。

次は、最初の1か月です。

ここで扱うのは、頻度は低いけれど、起きたときに取り返しがつかないこと。交通事故、病気、災害、お金、そして心の不調です。

この記事では、それぞれで「何を、どこまで」伝えればいいかを紹介します。

交通:事故のときの手順を、事故の前に渡す

交通は範囲が広すぎるので、場面を3つに分けて、それぞれ1つずつ覚えてもらいます。

場面 覚えること
歩くとき 信号が青でも、左右を見る
自転車のとき 信号・一時停止・ライト・左側・一人・スマホを見ない(No.01)
電車のとき ICカードを持たせる。駆け込まない

いちばん効くのは、通勤経路を一緒に一往復することです。見通しの悪い交差点や車の出入りが多い場所で立ち止まり、「ここ、危ない」と指さすだけで足ります。

そして最重要なのが、事故が起きたときの手順を、事故が起きる前に伝えることです。

  1. 止まる:その場を離れない。立ち去ると重い違反になります(自転車も同じです)
  2. けが人を助ける:けが人がいれば119番
  3. 安全にする:後ろから来る車に追突されないようにする
  4. 110番:警察に知らせる。「呼ばなくていい」と言われても呼ぶ
  5. 会社に電話する

人の命が先で、手続きは後です。この5つを、日本語とベトナム語を並べたカードにして、財布に入れてもらいます。

病院:「我慢する」を減らす

外国人材が病院に行かないのは、怠けているからではありません。費用がわからない、言葉が通じるかわからない、休んでいいのかわからない、どこに行けばいいかわからない。これが重なると、我慢を選び、悪化してから救急に運ばれます。

教える順番は4段階です。

  1. 言う:体調が悪いとき、まず誰に言うかを1人に決めておく。これがいちばん大事です
  2. 保険の書類:マイナ保険証や資格確認書の置き場所を決める(健康保険証の新規発行は2024年12月に終わっています)
  3. 病院:近所の診療所を1つ決め、元気なうちに場所を見せておく
  4. 薬:処方箋を持って薬局へ行く流れを、一度付き添って見せる

119番に電話したとき読み上げられるよう、寮の住所を大きな字で書いた紙を電話のそばに貼っておきます。119番の通訳サービスは消防本部ごとに対応が違うので、管轄の消防本部に一度確認しておくと安心です。

そして、制度の説明より効くことがあります。「体調が悪いときは、休んでいい」とはっきり言葉にすることです。言われていないことは、許されていないと受け取られます。実際に休んだ人を、決して責めないでください。

災害:起きてからでは、伝えられない

台風や洪水の経験はあっても、大きな地震を経験したことがない人がいます。「地震、経験したことありますか」と一問聞けば、説明の深さを決められます。

伝えるのは4つだけです。

  • どこへ逃げるか:最寄りの避難所に一度一緒に歩いて行く(10分)
  • 何を持つか:在留カード、パスポート、保険の書類、現金、スマホと充電器、薬を1つの袋に
  • 誰に連絡するか:あなたの番号と、つながらないときの決まり
  • どこで情報を得るか:多言語の防災アプリ(日本政府観光局が監修した「Safety tips」など)を、平時に一緒に入れておく

アプリは、災害が起きてからではダウンロードできないことがあります。平時に5分で入れておきましょう。

そして、机の下に入る動作を一度やってもらいます。恥ずかしがっても、やってもらってください。体が覚えた動作は、混乱の中でも出てきます。

お金:失い方は3つある

お金の行き詰まりは、失踪や離職に直結します。入口は、たいてい小さなものです。

失い方 対策
払い忘れ(家賃・公共料金) 口座振替や給与天引きなど、本人の記憶に頼らない仕組みにする。「日本語の手紙は捨てずに持ってきて」と伝える
自動更新(携帯電話・月額サービス) 契約に必ず同席し、「月いくら・いつまで・やめ方」の3点を指さしで確認する
犯罪への巻き込み 具体例で伝える(下記)

特に気をつけたいのが、次のような依頼です。

  • 他人の名義で銀行口座を作ってほしい
  • 荷物を受け取って、別の場所に運んでほしい
  • 在留カードを貸してほしい
  • 簡単に高収入が得られる仕事がある

本人にその気がなくても、犯罪に加担したことになり、在留資格にも影響します。頼んでくるのは、知らない人とは限りません。同じ職場の人や友人の紹介ということもあります。だから、「誰から頼まれても、この4つは断って、私に言ってください」と伝えます。

心の不調:見えにくく、いちばん大きい

最後は、数字にも制度にも表れないものです。

母語が通じない、家族と離れている、食べ慣れたものがない、困っても誰に言えばいいかわからない。心の不調は、本人からは言い出しません。だから、変化で気づくしかありません。

  • 外側:挨拶が減る、目を合わせない、遅刻が増える
  • 中間:台所が使われていない、夜中に電気がついている、休日に部屋から出ない
  • 中心:同僚と話さなくなる、母国への電話が急に減る・増える

外側の変化に気づいたときには、中心ではもっと進んでいます。早めに声をかけてください。

食事も、想像以上に効きます。ベトナム食材が買える店を一度案内する。寮で料理ができる環境を整える。においが気になるときは「くさい」ではなく「換気扇を回してください」と、行動だけを伝えます。

そして、相談の入口を3つ作ってください。あなた、同郷の先輩、外部の窓口(自治体の外国人相談窓口や登録支援機関など)。1つだけだと、そこに言えないことは行き場を失います。3つを紙に書いて渡しておきます。

1週間に1つずつ、4週間で

週 教えること
1週目 通勤経路を一往復、事故のときのカードを渡す
2週目 契約に同席、支払い方法を決める、郵便物は捨てない
3週目 保険の書類の置き場所、診療所、「休んでいい」
4週目 避難所まで歩く、アプリを入れる、机の下に入る

1週間に1つにするのは、間に日常があるからです。教えたことを1週間使うと、疑問が出ます。疑問が出た状態で次の週を迎えると、質問が出ます。間隔を空けることが、質問を生みます。

まとめ

  • 交通は3場面に分け、事故のときの5つの手順をカードで渡す
  • 病院は「まず誰に言うか」を決め、「休んでいい」と言葉にする
  • 災害は逃げる場所・持ち物・連絡先・情報源の4つ。アプリは平時に入れる
  • お金は、払い忘れ・自動更新・犯罪への巻き込みの3つを仕組みと具体例で防ぐ
  • 心の不調は変化で気づく。相談の入口は3つ用意する

次回は、一度教えて終わりにせず、次の受け入れにつなぐ方法を取り上げます。

連載「外国人材の生活支援」目次

この連載のもとになった本

この連載は、拙著『なぜ、ゴミ出しだけが何度言っても直らないのか? 悪いのは「教えたつもり」だった 外国人材の生活ルールが届く設計』(Kindle版)の内容をもとにしています。

本では、生活ルールを「どの順番で、どう教え、どう確かめるか」を、ゴミ・自転車・夜の音・病院・災害・お金まで一冊にまとめました。本人にそのまま見せられる日本語とベトナム語の一言も、項目ごとに載せています。

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